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【特別企画短編集】光耀纂⑤~県道87号線~




     けんどうー



 高速道路に太陽を隠された、車の往来が激しい県道を坂口の十字路で南に逸れると、そこには道幅の狭い、歩道も曖昧な県道87号線が走っている。兄が歩き、そしていなくなったその路(みち)を、僕は重たいリュックを背負いゆっくりと歩く。


 6月下旬の梅雨明けの空は、まるで鬱憤を晴らすかのように限りなく強く青くて、未来への標を示すようにまっすぐなこの道の果ての、水平線へと展開する。車の排気と熱気に煽られて古ぼけた黒灰色のアスファルトはゆらゆらと揺れて、決して辿り着かぬ幻の水たまりをを輝かせた。通りすがる大小の車は皆、無縁の旅烏(たびがらす)のように砂煙りを巻き上げて通りすがって行く。その延々たる、漠然たる時の中に、まるで僕の意識は朦朧と蜃気楼のように存在してるようだった。

 その、感覚を現実に引き戻そうとしたのか、或いは更なる幻想に誘ったのか、突然大粒の水粒が降り注いだ。雲ひとつない空から降るその雨は私を一気に濡らす。たまらず僕が駆けこんだ先は、一軒の小奇麗な外見をした喫茶店だった。看板には「プレリュード」とあった。

 中に入り、いつものように入口の漫画雑誌も手に取らずニス塗りの木製の椅子に座る。薄暗い店内には香り高いコーヒーの匂いが漂っていたので、僕はアメリカンを注文した。そして、窓の外の急に白い霧に包まれた県道87号線を眺める。


 兄は、どうしてここでいなくなってしまったのだろう?
 あの時も、この県道はこうして深い靄(もや)で兄を覆い、そして隠したのだろうか?


 僕はその時、直感的に何かを感じると、喫茶店の中をきょろきょろと見回す。
 すると、茶褐色の壁の柱に、何か文字が刻まれているのが目に入った。カッターか何かで傷つけたのだろうが、その文字は丁寧で、まるでこの店の歴史の隅に隠れているような、隠れていたような穏やかさを持っていた。




 「新しい世界を見つけた」
 「この道の先に見つけた」
 「ヒスイの花を眺めるために」 
 「またその体を持ちあげよう」




 僕はそれを見た時、兄がもう二度と戻ってこない事を悟った。
 目からは涙が溢れ、まるで道を創るように頬を流れ落ちた。 




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【特別企画短編集】光耀纂④木星


    木星



 宇宙旅行なんて、陰鬱(いんうつ)なだけだ。


 透明の分厚い透明板ごしに、昼のない永続的な夜の空間を眺めながら、私は思った。この宇宙船と同じ名を持つ、もとい由来になった天文学者コートリー・ボガードは「人はいつか銀河を超え、そして神を超える」と言い残し、最期に「しかし、私にはその資格は無かった」と言い残しこの世を去ったが、代われるもんなら代わりにやってもらいたい話だ。

 3万年の人の歴史において、宇宙航行技術は大きく進歩を遂げたが、しかし、地球のゆりかごに甘んじる状況はまだ続いていた。オメガサイクルローテション技術により無限にエネルギーを発生させることができるようになり、理論上、宇宙空間の移動が補給なしでいくらでも可能になった。時間さえあれば宇宙の果てまで生けるのだ。しかし、問題は乗り手である人間の寿命であった。そこまで優秀とは言い難いロボットに全てを任せるのは不安であり、また今更無人探索機も時間がかかるだけだ。そもそもに運行は無制限にできても、速度は一定以上に上げる事ができないのだ。上げ過ぎるとオメガサイクルローテーションに異常が生じるし、人体にも悪影響が及ぶとわかったためだ。なので絶対安全に運航するとなるとせいぜい時速4万5000kmまでが限度なのである。このスピードでも通常の人間ではこの宇宙の果てまで行けないだろう。ワープなんてものも、結局危険とリスクばかりが噴出して実用に至っていない。

 私が、この宇宙船に乗る事になったのは、ただ「単純に選ばれた人間」であっただけであった。科学の進歩で遂に生み出された「無量寿体」。いわゆる、老いの無い人造人間なのである。ただ、あくまでも一定以上老化が進まないのとちょっと肉体が強靭なだけで、宇宙空間に放り出されたり、高いところから落っこちたり、猛吹雪の山で遭難したり、食べるものが無くて栄養失調になれば普通に死ぬので不老不死では無い。この巨大な宇宙船には食料を太陽無しで生産可能なプラントがあるので、基本的に飢え死には無いのだが、しかし、こうして果てしなき宇宙旅行をする人間は我々「チーム・ウラヌス」の面々が初めてであり、この先の航行でどんな問題が生じても、その大半が「予想外」なのである。命を失う可能性は高い。こんな体じゃなきゃ、絶対にこんな旅には参加しないだろう。

 未知との出会いに心躍らせる奴や、神に挑むのだと心燃やす奴もいるが、私には彼等の気持ちはわからない。そんな事をして何にになるというのだ。こんな空間にずっといてはストレスが溜って気が違えるばかりに決まっている。人間と言うものはそもそも地球の一部なのだ。繋がっているのだ。その繋がっている生命線から離れるって事は、結局滅びの定めしかないような気がする。結局、皆モルモットにされているのにあいつらは浮かれて気付かない。そんな物語と現実が一緒くたになった甘ちゃん達とこれからずっと一緒に暮らすのもまた嫌になってくる。


 暫くすると、目の前に巨大な丸い黄色の星が現れた。
 ところどころに真っ黒な穴があり、皆を吸いこまんとする様なその星は木星だった。


 今から200年ほど前に、木星は今のような不気味な姿に変わった。どうも、原因は星の内部から特殊な磁気
が発生するようになったのが一因らしいが、研究はまだ進んでいない。一部では「イエローデビル」と呼ばれるようになったこの木星の事を、私は昔から大嫌いだった。


 目の前にその星が重なると、その姿が私の予想以上におぞましいものであるとわかった。同じ宇宙にこんな星があっては、いつか地球はこの星に食われてしまうのではないかとすら思える。凶獣のような御姿だ。この星には何かが住んでいるのかもしれない。


 悪い夢と同じようなゾクゾクとした感覚が私の体に満ちる。
 母なる星に帰りたいと、私は心から思った。


 しかし、その望みは叶わず、この木星にも私は再び出遭うことはおそらく無いだろう。
 どう足掻いても、引き返す事は、もうできないのだ。



 

【特別企画短編集】光耀纂③がんがりねずみ



    がんがりー


 おいらの名まえは、がんがりねずみ。
 
 お家のお柱お天井を、がりがりがりっとかじるのさ。
 理由なんてかしこまったものはまるっきり無い、熟された古木が美味しいのと穴があいて下界の奴らがギャーギャー言うのがカタルシスであるだけだ。

 頭のパーテンなシャムに追っかけまわされたり、がらりんがらりんとうるさい鈴を鳴らされても、おっ母さんより受け継いだルーチンワークを止めはせぬ。ご先祖さんなんか、京都の銀閣寺の欄間(らんま)の一部ををかじりきったらしいが、そんな悪伐英雄(あくばつえいゆう)などにおいらはなりたいとも思いやせん。普通のねずみで十分よろしい。


 がりがりがり
 がりがりがり


 やあ、今日も穴ぼこ開けた。
 希望だか何だか、騒がしい光が屋根に吹き上げて来る。まったく、人間と言うものはどういう気苦しいところに住んでいるのだろう。


 暗がりで単調に生きるだけだって十分にしやわせでいられるのに、人間ってのは頭が大きすぎるんだろうねえ。考えなくていいものまで考えちまうし、しなくていいことまで余計にする。


 しかし、かといって、ねずみを見習えとなどと、えらそな事は口が裂けても言いやせぬ。
 かじりはするけど、言いやせぬ。




 
 

【特別企画短編集】光耀纂②輝桜



    きろうのコピー


 私は、桜と夢を誓った。
 高校のクラスメートの事は誰も思い出せないけど、楽しい思い出なんか記憶にも無いけれど、それは決して忘れる事は無く、今も鮮明に私の記憶の中にある。


 誓った夢は、潰えてしまった。
 私が光を失うとともに。


 暗黒を目の前が覆って、歩く事もままならない私が、再びこの桜の前に来る事が出来たのは、その春の匂いに解け込むその穏やかな香りが私をここに誘ったからだ。呼んでいると感じた。


 桜の前に立ち、その逞しい、ざらついた、暖かい回胴(かいどう)に私は手を当てる、そして、あの時のように頭を下げた。またやってきた事を、誓いを果たせなかった悔しさをその全身に滲ませながら。


 暫くの静寂のあと、柔らかな暖かい風が私の体を駆け抜け髪を揺らす。
 そして、その全てがふぅと通り過ぎた時、私は何か不思議な光が私の暗黒の世界に射すのを感じ、頭を桜の方に向けた。


 するとそこには、美しく澄んだ、淡き誕生の色を持つ桜の花が輝きを放ち咲き誇る姿があった。それは幻想的で、全てが再び始まる様な希望に満ちていた。


 私は、涙を零(こぼ)し、再びその桜に誓う。
 これからも、決して諦めずに生き続けると。



    さくら1


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【特別企画短編集】光耀纂(1)濃縮された手紙



    のうしゅく



 この私、レナール・コンポイド侯爵は、ヴェネチアに住む美しきエミリーナに手紙を送った。


 結婚を前提にお付き合いしたいとの気持ちを伝える愛の手紙である。送ろう送ろうと思っていたものの、豚が逃げだしたり、農民反乱が起こって鎮圧に駆りだされたり、絵描きのモデルをやらされたりと様々な邪魔が入り今まで送るに至らなかったが、ついに送った! 送ったのだ!


 その手紙の清書に至るまでには、かなりの時間がかかった。
 なぜなら、彼女に対して言いたい事があまりにも多かったのだ。その金色の髪が、まるでポセイドン下に広がる黄昏の海洋のようで、靡くとそれは太陽の輝きを受けた美しき細波のように美しい云々だとか、唇の赤いルージュがロードスに咲く薔薇の花のようで、十字軍の何ものよりも凛々しく聡明である云々とか、歩く様は空駆けるユニコーンのように優雅で美しい云々だとか、黒いいドレス姿はまるでかのモナーリザをより一層美しく生まれ変わらせたものと言っても過言では無く云々だとか、書き終わった頃には、一冊の物語が出来上がるほど、紙は積み重なった。勿論このまま出しては、冗長だと笑われるのが落ちだろう。そう思った私は、その手紙の推敲を開始した。


 2回、3回、意味の似たものをひとつにし、徐々に切り詰めていく。
 言葉は、どんどん濃密に、まるでコップの水に様々な砂糖や塩や香辛料を混ぜ込むように凝縮させていった。そして、354回目で遂に、私の愛の手紙は完成した。その、濃縮に濃縮された手紙は、極めて短く、極めて深遠な1つの個体となったのだった。では、出来上がった手紙を読み上げてみよう。



 「エミリーへ  君のシャム猫は、バターを足につけても家から出ることだろう」


 
 私の渾身の愛の手紙である。
 


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